"ワインを飲む。それはテーブルの上の旅だ。グラスから立ちのぼる香りは、葡萄が育った土地の、太陽と風と土がつくりあげたもの。ゆっくりグラスを傾けると、ワインは私たちを連れていく。緩やかに続くブルゴーニュの黄金の丘へ、地中海が迫るシチリアの葡萄畑へ、白く雪が輝くアンデスの麓の醸造所へ。




ここに、その旅を競技にしたものがある。ブラインドテイスティングという。選手達の前に、謎のワインがある、選手達はグラスを手に取り、旅に出る。最初、その行き先は分からない。色を観察し、様々な香りを嗅ぎとる。ブルーベリー、ブラックベリー、黒胡椒、シナモン。マッシュルームのような複雑な香り。土のにおい。わずかにミントやメンソール……。




そのうちに、選手達は、そのワインを生んだ土地へと呼び寄せられていく。葡萄が育った、太陽と風と土のもとに。数分間の旅から帰り、選手は宣言する。「このワインがつくられたのは、アメリカ、カリフォルニア。ナパヴァレー。葡萄品種は、カベルネ・ソーヴィニョン。ヴィンテージ、ニ〇〇五年」闘う選手達は、ソムリエ。テーブルの上の旅の案内を生業とする人々だ。"





「たたかうソムリエ-世界最優秀ソムリエコンクール」
pp.9-10
著者/編集:角野史比古
出版社:中央公論新社





「うんちくばかりたれるいけ好かない職業」というイメージの方も多いと思います。それでも、必死に勉強して覚えた膨大な知識、もう考えたくない、飲みたくないと思いながら、様々な種類のお酒を飲んだ経験。これら全て、自分の目の前の人達を幸せにするために、精進したひとつのやり方です。



そんなことを頭の片隅に入れて、何処かでワインを飲んでもらえたら、きっと楽しいです。



赤ワインが、より美味しく感じる季節になってきましたね。