vivo daily stand 中野本店

東京都中野駅徒歩3分!vivo daily stand中野店はフレンチデリとデイリーワイン、エスプレッソやカフェラテを提供するバルです。

カテゴリ:ワイン > ブドウ

AM11:00 土曜

目覚めた瞬間、昨夜の深酒のせいか、ひどく最悪な気分だ。

胃はもたれ、少し頭が痛い。

リビングに向かいソファに一旦座る。

すぐに立ち上がって冷蔵庫を開くと、

半分くらい残っている赤ワインが冷えている。


自分でもよくわからないが、

深みのある紫色を目の前にあった

コップにドボドボと注ぐ。

冷えているにもかかわらず、果実の芳醇な香りが立ち込める。

モーニングコーヒーを飲むように飲んだ。


濃厚なブルーベリージャム、オレンジピール、青い野菜、イチジク、ペッパー、コーヒーなどが入り混じり

凝縮感のある一本の線が優しく、余韻として長く続く。

目が覚める

一杯七千円もするワインをなんのこだわりもないコップで飲む

朝の迎え酒も悪くないと思いながら



ラベルを見た
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冷たい空気の中、暖かさが身に染みる季節になってくる頃。

今年もあと少しだなとぼんやりと考えはじめる。

華やかなイルミネーションが輝き、街中が明るくなる楽しい時期。一年を通じ最も多くの恋人たちでレストランが賑わうクリスマスも終わると、一気に年末年始モードに入る。

一週間でここまでガラリと雰囲気が変わる期間はないだろう。

のんびりしていられるのも今のうち、気が付けば残り二ヶ月間、あっという間だ。

去年の年末営業最終日、グラスを洗い、拭き取り、空き瓶を捨てて後片付けも大体終わった頃、シェフから一年の労いの意味を込めたシャンパンのプレゼント。

1976年【カルト ドール ブリュット】
40年物のドラピエ。9割【ピノ・ノワール】黒ブドウでつくられるシャンパーニュ。

意表をつかれ、上手く感情表現できない。

早速、針金を緩めそっとコルクを抜く。グラスに柔らかに発泡する液体を注ぐ。やや銅色を帯びた金。ドライフラワーやフルーツコンフィのニュアンスの香りが豊かに広がる。

フルートではなく、
ブルゴーニュグラスに。

自分の年齢より生きているシャンパン、緊張する。

40年目を迎えたものとは思えないような洋梨やカリンなど、フレッシュなフルーツを感じる。若々しいが、確かな熟成感、洗練された泡立ち、妖艶な雰囲気。

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「脳天突き抜けるほどの奥深い余韻」

大きな存在感で心地よく長い余韻にいつまでも浸っていられる。

そして、一年の締めくくりに極上のシャンパーニュを飲みたいなとまたぼんやり考えはじめる。

あれ以来、シャンパーニュを再定義し、喉を潤すように飲み干す飲み方や、とりあえずビールのようにグラスで注文することはなくなった。

特別な日に注文したいものに変わった瞬間。

シャンパーニュ地方は、フランス産地の最も北にあり、年間平均気温は11度、真冬になればマイナス25度にまで下がってしまう。

過酷な環境の中、栽培者達は何故畑仕事を続けているのか。

その歴史と発泡する液体に魅了された人々。

これから年齢を重ねるたびに、

シャンパンを飲む機会が増えそうだ。


ブドウ

その日は生憎の雨。

住宅街にあるそのお店はマンションの1F奥にひっそりとある。重厚な木製扉を開けるとコンクリート打ちっぱなしの素っ気ないエントランス。

そして奥のレストランスペースに案内されると薄暗い異空間が広がる。木製の壁面パネルに間接照明があたりテーブルはスポットライトで浮かび上がっている。

まるでカップル以外を拒むかのような雰囲気だが、モダンなインテリアはこれから出て来る料理を連想させる。

ワインリストからシャトーヌフ・デュ・パプをチョイス。一般的にこのワインは果実味たっぷりでタンニンが強く、どっしりと力強いものが多い。

グルナッシュ主体で数種類ブレンドされることがほとんどだ。彼女と選んだワインは、ミネラル、酸、果実味のバランス、フィネスが素晴らしく南仏という暑い土地で造られたものとは思えない。

一流の魅力的な一皿、二人でグラスの中にある様々な香りをさがしながら、あーだこーだと言い合う。

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お腹も心も膨れる素晴らしい時間だ。

そう思えた瞬間、共有できた時間と相手は直感的に忘れてはいけないと感じる。

あれ以上の南仏ワインにはまだ出会えていない。


雨の日、小さなワインバル、メニューを眺めていると南仏ワインを見つける。

少しあの頃を思い出しながら、頼んでみた。


ブドウ

ほとんどの席が埋まり始める遅い時間、いつもの時間に男性も現れた。

入口付近のスタンディング席と、カウンターに一つ空きがある。常連客はスタンディング席に流れる傾向にあるが、今日は迷わずカウンターに向かった。

「こんばんは」

「おっす、生ちょうだい」

右手でレバーを引き、左手に持ったグラスに金色のビールが注がれ、白いクリーミーな泡で蓋をする。

「お待たせしました」

「はいよ」

ゴクゴクと一口で半分くらい飲み、一呼吸。ようやく忙しい一日が終わったみたいだ。

黒髪のナチュラルショート。健康的な小麦肌。一見すると無地のネイビースーツに見えるが、光の当たり具合で、光沢のあるストライプ柄が浮き出ている。

いつもと雰囲気が少しちがう。何か思い詰めて、寂しげな表情。

「なんか赤ちょうだい」

「どんな感じにしますか?」

「今日は任せるよ」

グラスは既に空になっている。

何を勧めようか

「今日さ、娘の誕生日なんだよね」

「…………」

何も言わずにセラーから一本のワインを取り出す。

そのボトルのラベルはキラキラしていて、テントウムシのイラストが描かれた可愛らしいデザイン。透き通った明るいルビー色のワイン。

「どうぞ」

「可愛いラベルだね」

ワインを口に含む

「飲みやすいね。美味しいよ、ありがとう」


事情は分からない

ただ女の子というイメージのワインを勧めずにはいられなかった。

男性はビールを飲んでいたときより、少し嬉しそうな表情で、じっと優しい目でボトルを眺めていた。


テントウムシは幸運を呼び込むということ・ワインは味だけでなく雰囲気で飲むこともできる


伝えようとしたが、

その必要はなさそうだ

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ブドウ シリーズ

ナイロールの眼鏡をかけた

知的な印象の男性は、

「これ美味しいね、すごく好み」

ザクロ色がかった深いルビー色をグラスの中でまわしながら、余韻に酔いしれている。

ナイロールとはレンズの上にだけフレームのあるタイプのこと。「これ、僕も好きです」と、グラスに注いだボトルをラベルが見えるようカウンターにそっと置く。

年季の入った天然の一枚板。広く、八メートルはあり、一般的なレストランとは異なり、カウンターがメインだ。

男性がお店に通い始め、一年以上だろうか。様々なタイプのワインをお任せで注文する。その中で一番好みだったワインが、

【ガッティナーラ トラヴァリーニ】

【ネッビオーロ】百パーセントでつくられるワイン。北イタリア、ピエモンテ州の一番左端のガッティナーラ地区。

ピエモンテで有名なワインとしてバローロとバルバレスコがあるが、これらも同じ【ネッビオーロ】からつくられる。

これまで提供してきたワインの統計では、女性的なニュアンスのワインが好きみたいだ。

バラの繊細な香りや、胡椒を思わせるスパイシーな香り、柔らかく、絹のようなタンニンとストラクチャー。酸がしっかりあるのに、ここまで心地よくエレガントに飲めるワインはそう多くない。

丁度一年前、十月に男性はこのワインが好きで、現地のワイナリーにまで行ってしまったのだ。後日、大量のワインを買い付けてきた。本当に気に入っているんだろう。

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「買ってきたワイン、今度一緒に飲もうよ」

一度、顔だけ出してくれた。

イタリアから帰国後、しばらく男性の来店はなく、久々に十一月の下旬に来店。深夜二十四時頃、カウンターで一人、赤のグラスワインと前菜を召し上がっていた。その日は、仕事が余程忙しいのか、心身共に憔悴しきっている。

「大丈夫ですか?」

「ちょっと忙しいけど、大丈夫だよ」

この人が仕事で愚痴や弱音を吐いたことは一度もない。

いつもお店に、シェフがつくる料理とお任せワインを楽しみに、嬉しそうに飲んで、食べていた。

「それじゃ、またね」

お店の入り口までお見送り

これが男性の最後の言葉となった。

突然ぱったりとお見えにならなくなり、連絡もつかず、仕事が忙しいんだろうなと、その程度に思っていた。

そして、2017年、1月5日

確か年明け営業初日だったと思う。

その日、

男性の突然の訃報を知ることになった。

数ヶ月後

「予約なしでも大丈夫ですか?」

三名様、御来店

テーブル席に案内すると

「実は…」

ご親族の方々だった

その日は男性がよく食べていたものと、お気に入りだったガッティナーラをボトルで注文。あの子はこういうものを食べて、飲んで、こんなことを感じていたんだ。終始、 団欒していたが、泣いているようにしか見えなかった。

ウェイターからは男性の人柄や、食事やワインの好みを説明、それ以外の言葉は何一つ出てこない。

何も言えず、無力感しかなかった。





常連のお客様が次の日また来てくれるとは限りません。【飲食店とお客様】この関係を対等に良く保てるよう、誠意を持って一日望んでいます。

予想もしないことが起きる連続で、一日振り返ると後悔することが多く、

あの時、こうしていればよかった。

あの時、こういう言い方だったら。

ショッキングな出来事も頻繁にあります。毎日その繰り返しです。たぶんこれからもずっとそうです。

それと同じように、扱ってきたワインにも一本ずつそれぞれの思い出と、記憶が積み重なっていきます。

ここまで書いてきて何を言いたいのか、自分でも未だ解決できていません。お店に来てくれた人にソムリエとして何ができるのか、できたのか。所詮、人一人にそれほど多くのことはできないと思っています。

なんらかの理由で足が遠のいても、その人のことを考え続けられるのか。この話の出来事がきっかけで、自分が信じてきた【接客】が崩れ落ちました。

当時は不謹慎だと思い、何も記録することはせず、記憶として留めていましが、それでも人は気付くと時間が経つにつれ簡単に物事を忘れていきます。

思い出すきっかけがあり、記憶を辿りそのまま勢いで殴り書きました。


初心を忘れず、

これからもっと精進します。

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